行列累乗根とは与えられた行列$\,A$,自然数$\,p\,$に対して方程式$\,X^p=A$を満たす行列$\,X$のことであり,量子格子色力学分野の数値計算・植物繁殖のリモートセンシングに現れる計算課題である.本研究では行列累乗根の計算方法としてNewton法に着目し,演算量削減による高速化を試みる.
Newton法は反復式によって解を更新する反復解法であるため,所要演算量は1反復あたりの演算量と反復回数の積で表される.本発表では1反復あたりの演算量削減について述べる.
Newton法の反復式には,得られる近似解列は数学的には等価であるが,誤差に対する近似解列の振る舞い(安定性)や1反復あたりの所要演算量等が異なるとして数種類の変種が存在する.本発表では安定性を有するが1反復あたりの演算量が$\,\mathcal{O}(n^3p)$である反復式:Incremental Newton iteration(Iannazzo, 2006)に着目する.そして,反復式に含まれる行列多項式の構造を活かした式変形を提案し,安定性を失うことなく演算量を$\,\mathcal{O}(n^3\log p)\,$まで削減できることを示す.さらに,数値例を通して安定性を失うことなく計算時間が削減できていることを確認する.